世代を超えるトラウマ
「世代間トラウマ」(Generational trauma, transgenerational trauma)は、世代を超えて引き継がれるトラウマのことを言います。 「世代間トラウマ」は精神疾患の診断名ではありません。 ある人が抱える精神症状や人間関係の問題、思考や行動に、上の世代で経験されたことの影響が及んでいると考える、社会的な視点を踏まえたものです。 ある集団がトラウマ的な出来事を経験すると、その集団に属する人々が被る身体的または心理的な症状や状態が、不安、抑うつ、心臓疾患等の身体疾患、PTSD症状などとして次の世代にも引き継がれる傾向があると言われています。 戦争、人種差別と迫害、災害等によって起き、欧米の研究においては、先住民族、ホロコーストの生存者、アメリカの黒人が例として挙げられています。 戦争トラウマは、日本において、十分注目されずにきたものでした。 終戦80年の2025年のこの8月は、メディアで目にすることが出てきました。 あのような甚大な加害を行い、被害を受けた日本。それが何の影響もないわけがないことが、ようやく明らかになってきています。 私は、終戦前後に生まれた両親の元に、高度経済成長期に生まれました。 私にとって戦争は「遠い過去のもの」。祖父母が経験したとはいえ、「自分のこと」としては認識しない、歴史上のことだと思ってきました。 でも数年前、心理療法のトレーニングのデモ練習で、自分も相手も、戦争の歴史の影響がありありと存在するのだという経験をしました。 その時は圧倒され、「影響」の部分を切り離して練習を終えたのですが、ずっと引っかかるものを抱えてきました。 今はそれが、私の中に、価値観、イメージ、思考や言動、そして身体においても色濃く影響を及ぼしているということを実感しています。 カウンセリングでも、戦争による影響がテーマになることが、直接的にも間接的にもあります。 現在受けているトレーニングでは、このような影響についても扱うことを訓練中です。 「トラウマ」を、個人の内側の体験に留めず、周囲とのつながり、コミュニティ、そして世代を超えて見る、そういう視点も大切にしていきたいと思います。