「愛」に基づくこころの実践~「ALL ABOUT LOVE」①


ブラック・フェミニズムを代表する文化批評家・教育者・活動家ベル・フックス。
彼女の名前「bell hooks」は、カタカナで書くと、小文字のみの表記に込めた思いが薄れてしまうのが残念なところ。
数々の有名な本が翻訳出版されているので、ぜひ。
私は「フェミニズムはみんなのもの」を若い頃に読み、心が震えるほどの力をもらったことを覚えています。

そのフックスの著書の一つ、「ALL ABOUT LOVE~愛をめぐる13の試論」。
この本では、「愛」を、情愛の感情や関係とは異なるものとして提示しています。


愛とは愛のおこなうところのものである。子どもたちに愛を与えるのは私たちの義務だ。私たちが子どもたちを愛する時、彼らは所有物ではなくて、彼らには権利があるのだと ―私たちは彼らの権利を尊重し擁護すると― あらゆる行動で認めることだ。

正義がなければ、愛は決して存在しえない。

 

愛への目覚めは、私たちが権力と支配の強迫観念を手放した時にのみ起こり得る。

愛の倫理はすべての人が自由である権利、存分に申し分なく生きる権利を有することを前提とする。



ここで示される「愛」は、ロマンティック・ラブの「愛」ではなく、個人と社会のすべてに自由と尊厳をもたらすものとして示されています。


では、心理療法と「愛」のテーマはどのようにつながっているでしょうか?


最初に見捨てられたときの(略)心の傷は、どんな人間関係も癒すことができなかった。(略)
過去に戻ることは決してできない。(略)ずっと昔、まだ幼くて心の願いを声に出して言えなかったとき、愛を失って受けた深い悲しみを解き放って初めて、私たちは心から望む愛を見つけることができる。


「愛」が得られなかった記憶。「愛」を失った記憶。
このような傷は、「愛」の倫理と実践がないところ ―つまり正義がないところ― で起きます。
見つけられず、認められず、癒されないままの傷は、心の奥深くに残ります。そして「愛」の倫理と実践を行うことを困難にします。

心理療法は、今、別の形で現れている「問題」「感情」などを通して、「愛を失って受けた深い悲しみ」の場所へと進むプロセスの時間。
逆に言うと、今別の形で現れている問題や感情は、「愛を失って受けた深い悲しみ」の場所へといざなってくれているのです。

でも、

たんに、どのようにして自分は価値がないと思うようになったかを知るだけでは、私たちが自体を変えることは、まず不可能だ。というのも、それはたいていの場合、変革へのプロセスのたんに一つの段階にすぎないからだ。


ただ傷があることを知るだけでは、傷は変容しません。
そこからが次の段階。
心理療法で行うこと、サポートしていくのは、次の段階へと進めていくこと、そして変容へとつながる体験をセッションの場で行うことです。

セッションでは何を行うでしょうか。
そして正義はなぜ愛に必須なのでしょうか。


次回へつづきます。