孤独の正体
スタンダップ・コメディアンのハンナ・ギャズビーの『ナネット』(2018年)は何度見ても最高です。
ハンナはレズビアンで、『ナネット』公演の前年にADHDと自閉症の診断を受けました。
鬱と不安障害があり、レイプと暴行を受けたことがあるというハンナの体験がこの公演で語られています。
こちらのTEDトーク(Three ideas. Three contradictions. Or not. | Hannah Gadsby)はその後日談。
「私が人間として生きている意味は何なのか」という深い問いがもたげます。
ハンナは、レイプや暴行だけでなく、差別や暴力を受けてきたことでPTSDもありました。
『ナネット』までは、そういう自分の個人的エピソードの傷みの部分を削いでジョークにし、コメディとして発表していました。
でもそれはトラウマの再演(※)だったということに気づいていきます。
それは自分自身を切り離していた行為だったということ。
そして世界から切り離されないためにしていた行為だったということを。
真実と傷みをそのままに話すことを、世界は忌避します。
見たくない、聞きたくない現実。
それが自分を否定すること、
あるいは自分の傷が再発してしまうこと。
その恐怖から、真実と傷みを遠ざけようとします。
ハンナはそれを幼少期から知っていたので、「笑い」という方法で自分を世界につなげようとしてきたと。
でもそれを止めよう、と決意して発表した『ナネット』。
「真実と傷みをそのままに話すことで周縁に追いやられるとわかっていた上で、真実を伝えるために自ら犠牲を払う覚悟でした。」
ところが『ナネット』は世界中で大評判になり、受賞もしました。
「結果は私を世界から押しやるのではなく、世界は私を近くに引き寄せたのです。」
このことは、孤独とは何かということを伝えてくれています。
自分の中にある深い傷みが、誰とも、世界ともつながっていないこと。
傷みが現れると世界から切り離されてしまった経験。
その深い恐怖。
ハンナはコメディを通してそれを伝えました。
心理療法もまた、孤独をほぐし、和らげ、内なる真実と傷みを感じていくことで「世界を私の近くに引き寄せる」という体験。
その道のりを共に歩むものです。
それが積み重なると、「性格」や「思考パターン」のようなものへと形成されていきます。
被害を最小化しようとする身体の叡智ですが、パターン化した反応がもたらすマイナスの影響が大きく、苦しみや困難が継続します。