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3月, 2025の投稿を表示しています

効果的なセラピーのために 「はじめに」

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日本は心理療法に健康保険が適用されず、法・制度による補助もないため、利用料は残念ながら高額です。 1回の料金は3,000円程度から数万まで幅広いものの、金額と効果が比例するかどうかを事前に知ることはできませんし、実際、比較はとても困難です。 通常、心理療法は、1回や数回程度で終了したり、大きな変化や効果を実感しにくい治療法です。場合によっては年単位でかかることもあり、経済的・時間的負担は大きいというのが実情です。 利用者にとって手が届きにくいシステムになってしまっている背景事情はここではふれませんが、このような現実の中で、できるだけ費用を抑え、効果をなるべく早く感じられる可能性について考えてみたいと思います。 その要素として、次の4つに分けて整理してみます。 これら4つはどれも重要で、相互に影響しています。 これらについて認識し、意識し、取り組むことは、生活全体を安定した方向、よい方向、問題の改善につなげていく上で、大きな違いをもたらします。 ① 心理療法の種類の選択 ② 心理療法の支えになるもの、効果へ良い影響をもたらすもの ③ セラピストの質 ④ クライエントさんの側の要因 ⑤ ゴールはどこか? これから順に取り上げて書いていく予定ですが、私が行っている心理療法を受けていただくのに直接役立つだけでなく、他の異なる心理療法を受ける際にも役立つような書き方にしていきたいと思います。 とはいえ、読んだだけですぐにその通りに進むことはないでしょう。 この内容を頭の片隅におきながらカウンセリングを選び、受け、 カウンセリングを受けている中でまた参照し、確認する、いうことを少し続けてみると、 よりしっくりくる心理療法やカウンセラーを選ぶことができ、 カウンセリングのプロセスは、軌道修正しながらもゴールに向かって進むことができ、 その進みはよりスムーズになっていきます。 クライエントさんにとって、安全で、セラピーがよい変化をもたらすものへと進んでいくために、どれも欠かせない要素だと考えます。

「私はHSPですか?」などについて考える大切なこと

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「私はHSP(非常に敏感)ですか?」 「私はAC(アダルト・チルドレン)です」 「夫は発達障害だと思います」 自分や周囲の人の精神的な状態や言動の特徴、困難な状態を、こんなふうに表現されることあります。 私は長くDV被害者の支援業務に携わっていたのですが、そこでも「これはDVですか?」と聞かれることが珍しくありませんでした。 自分や周囲の人に起きていることを一言で表すこのような用語は、上記以外にもたくさんあります。 メンタルヘルスに関して日本で一般的に用いられているものとしては、共依存、カサンドラ症候群、ボーダー(ボーダーライン)、空の巣症候群、トラウマ、最近だとコミュ障やメンヘラなどなど。 このようなメンタルヘルス用語は、それぞれの特徴的な点をまとめ説明するために精神科医や心理学者などのメンタルヘルスの専門家が提唱したものもあれば、一般の人から広まっていったものもあります。 しかし、そのほとんどは、精神医学で用いられる診断名ではありません。 こちらの動画は、このように人々が自分や他者を「診断」するようになった背景を二つ取り上げています。 ① 病院ではDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル。現在は第5版TR)に基づいて診断が行われます。その診断基準の多くは、正常な(normal)行動の極端なものであり、そのため、正常かそうでないかという二者択一ではなく、その間にグレーゾーンが多くあります。 そのグレーゾーンにあたる状態は、状況や年齢(年代)によって、強く現れることが普通にあります。 ② ソーシャルメディアの広まりにより、専門家ではなく、専門の訓練も受けていないアカウントが、気楽に「〇〇とは」と発言し、そのアカウントに多くのフォロアーがいると、人々はそれを信じ、その情報が拡散されていきます。そうすると、人々はその用語を使って診断することに安心や心地良さを感じるようになっていきます。 自分に起きている困難や苦しみにぴったりくる用語を見つけた時、ホッとすることがあります。 自分の苦しみは自分のせいではないと思えたり、 この苦しみは自分だけではなかったのだと思えたり、 苦しみの理由がわかって安心したり、言葉にならなかったものに名前がついて安心したり。 でも一方で、気を付けなければならないこともあります。 他者に対してその用語が当てはまると思う場合や、 用語によっては...

「進撃の巨人」あの愛はトラウマ反応なのか?➂

「進撃の巨人」の登場人物の中で、一人の人を強く激しく信じ、求めるジーク、ミカサ、始祖ユミル。 3人とも、その相手との出会いは、大きな傷つき体験がありました。 恐怖や受傷という点では同じですが、それが起きた経緯はやや異なっています。 ジークと始祖ユミルは、養育者や生育環境における重要な他者からの、適切・適度な安全や安心を得ることがない育ちがありました。 一方ミカサは、優しい両親の元で健やかに育っていましたが、その両親が目の前で斬殺されるという衝撃を体験しました(そしてその場に居合わせたエレンに助けられるのです)。 トラウマの心理療法では、これを分けて考えるやり方があります(※)。 ジークがクサヴァーに対して抱く強い思慕、そこからくるクサヴァーの思想を受け継ぐ強烈な意思。 これは、両親から暴力を伴って否定され続けてきた虐待による発達性のトラウマの影響と考えることができます。 始祖ユミルがフリッツ王の意のままに奴隷として生き、自分が死んでもなお、「道」という一切の孤独の世界で、フリッツ王の影を引きずったまま奴隷として存在し続けたこと。 これは、自分がおかれた状況とフリッツ王の暴力支配の恐怖による迎合反応と考えられます。 ミカサは、両親を惨殺された経験がその後に影響を及ぼしているとして、単回性のトラウマエピソードにあたります。 このようにみていくと、3人ともが抱く「愛」の様相は異なっています。 そのため、ジークと始祖ユミルが、内面化された他者の思想から解放されていくプロセスも異なってきます。 ジークは、クサヴァーとの間で経験した安心や充足感を自分のリソースとしながら、両親との関係による傷つきを処理し(癒し)、そうすることによって、クサヴァーの思想ではなく、自分自身の内側から出てくる考えを見つけていくことになるでしょう。 クサヴァーを慕う気持ちは大切にしながらも、クサヴァーをなぞった思想ではなく、自分自身の思想を。 始祖ユミルのフリッツ王への「愛」は、その場を生きのびるための迎合反応でした。 肉体の死後に閉じこもった「道」の世界は、誰も彼女に危害を加えないという意味では安全な場所でした。 しかしそれは誰をも排除しなければならない孤立と孤独の世界。その世界でたった一人、あれは「愛」だったのだと思うしかない世界。 ですから、始祖ユミルには、そのような反応を引き起こした度重なる虐待...