「私はHSPですか?」などについて考える大切なこと

「私はHSP(非常に敏感)ですか?」

「私はAC(アダルト・チルドレン)です」

「夫は発達障害だと思います」


自分や周囲の人の精神的な状態や言動の特徴、困難な状態を、こんなふうに表現されることあります。

私は長くDV被害者の支援業務に携わっていたのですが、そこでも「これはDVですか?」と聞かれることが珍しくありませんでした。


自分や周囲の人に起きていることを一言で表すこのような用語は、上記以外にもたくさんあります。

メンタルヘルスに関して日本で一般的に用いられているものとしては、共依存、カサンドラ症候群、ボーダー(ボーダーライン)、空の巣症候群、トラウマ、最近だとコミュ障やメンヘラなどなど。


このようなメンタルヘルス用語は、それぞれの特徴的な点をまとめ説明するために精神科医や心理学者などのメンタルヘルスの専門家が提唱したものもあれば、一般の人から広まっていったものもあります。

しかし、そのほとんどは、精神医学で用いられる診断名ではありません。



こちらの動画は、このように人々が自分や他者を「診断」するようになった背景を二つ取り上げています。


病院ではDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル。現在は第5版TR)に基づいて診断が行われます。その診断基準の多くは、正常な(normal)行動の極端なものであり、そのため、正常かそうでないかという二者択一ではなく、その間にグレーゾーンが多くあります。

そのグレーゾーンにあたる状態は、状況や年齢(年代)によって、強く現れることが普通にあります。

ソーシャルメディアの広まりにより、専門家ではなく、専門の訓練も受けていないアカウントが、気楽に「〇〇とは」と発言し、そのアカウントに多くのフォロアーがいると、人々はそれを信じ、その情報が拡散されていきます。そうすると、人々はその用語を使って診断することに安心や心地良さを感じるようになっていきます。



自分に起きている困難や苦しみにぴったりくる用語を見つけた時、ホッとすることがあります。

自分の苦しみは自分のせいではないと思えたり、

この苦しみは自分だけではなかったのだと思えたり、

苦しみの理由がわかって安心したり、言葉にならなかったものに名前がついて安心したり。


でも一方で、気を付けなければならないこともあります。

他者に対してその用語が当てはまると思う場合や、

用語によっては他者との関係性が関わるものの場合(例えば「カサンドラ症候群」)です。

そこに、相手を非難する気持ちや正当化する気持ちがあるかもしれませんし、

相手への「レッテル貼り」につながることにもなります。

それは今後の役に立たないことになってしまいます。



日本では、心理職は医学的診断をすることができません。

診断名やメンタルヘルス用語を用いるときは、個々の状況などをふまえて、非常に慎重に扱わなければならないという訓練をうけています(にも関わらず、ソーシャルメディアなどで精神科医や心理カウンセラーが安易に用語を使用していたり、特定の人に対して診断名を推測している事実があり、それには強い懸念を抱いています)。


診断やメンタルヘルス用語は、それがご本人の役に立つものでなければなりません。

役に立つ、というのは、どのように治療やケアを行っていくか、どのように環境を整えていくか、周囲の人や社会にどのように働きかけていくか、ということです。


前回のブログでは、アニメの登場人物の精神・心理状態について書きましたので、重要なこととして今回とりあげました。