効果的なセラピーのために ➂クライエントさんの側面
心理療法が「効果」を発揮していくところには、3つの要素があります。
- 他者(カウンセラー)との関係に対して不安がなく、オープンになっていること
- 自分自身に起きていること、感情や感覚、思いに対する気づきや興味をもち、それをやや客観的にとらえること
- セラピーに対する目的や希望に対して主体性があること
…なんですが、でも、これらが心理療法を受ける目的そのものですよね。
この3つのことに困難や不安を感じていたり、これらへの難しさがさまざまな問題や苦しさをもたらしているわけですから。
初めて会う他者(カウンセラー)に対して、最初から安心してオープンでいられないのは当然です。
日常会話とは異なる心理療法。でも何をするのか、どんなふうに話をしていくのか、わからないし、不安に思いますよね。
「楽になりたい」などといった希望は浮かびやすいですが、その「楽」な状態を経験したことがなければ、ゴールは霧の中のように感じるでしょう。
比較的重度のケースを長期にわたって取り組んでいる12人の熟練のセラピストに対して行われた研究によると、膠着状態に関連しているクライエントさんの側の要素として、「病理の重さ」と「それまでの人間関係上の問題」があげられています(Hill, Nutt-Williams, Heaton, Thompson & Rhodes, 1996)。
つまり、より短期間で、より深い効果を感じられるかどうかについて、クライエントさんの側のこのような要因も影響するというように解釈することもできます。
これはかなり前の論文ですので、近年言われているところでは、外受容感覚(自分の外の刺激に対する知覚)と内受容感覚(身体内部の感覚への知覚)の感度や正確さに関わる要因もあります(福島, 2019) 。
他者(カウンセラー)との関係への不安や緊張感が強い傾向があり、苦しい感情や思いの渦の中にいて、何とか楽になりたいと望みつつも、それがどういうことかイメージしにくい…
こういうことが強かったり大きいほど、心理療法をより細かく、より丁寧に進めていくことになります。
このようなことが、心理療法の全体流れにおいて、どのようなことを意味するのでしょうか?
心理療法は、大きく分けて3つの段階があります。
1つ目は、安定化の段階。
現在起きている問題や状況・状態について、「なんとかなっている」「大丈夫だと思える」「自分なりに対処できそうだ」と思えるようになる段階です。
クライエントさんが自分なりのコントロール感を感じられるようになったり、日常生活において、以前よりも困難に感じたりダウンしてしまうようなことが少なくなったり、小さくなったりすると、2つ目の段階に移ります。
2つ目は、問題や困難の原因自体を扱っていく段階です。
過去において経験したことを扱います。
ある程度、問題や困難に対する感じ方が変わっていったり、当時の出来事などによって受けた影響が現れなくなってきたら、最後の統合の段階に移ります。
3つ目の段階は、心理療法のゴールである、そのままの自分であることや、そのままの自分として内なる幸せを感じていくプロセスです。
この3つの段階は、1つ目が完了したら次へ、というものではなく、行ったり来たりしながら次第に重心が移っていきます。
心理療法を受けてみようと思うときはたいてい、これまでの様々な経験が今の苦しみをもたらしています。ですので、心理療法では2つ目の段階を取り組む、というイメージを、ばくぜんと持っていることが多く見られます。
ですが、始めに提示した「3つの要素」は、心理療法の1つ目の段階における中心的なテーマになります。
ではどうするかですが、「3つの要素」自体が、セッション中において様々に現れていることや、テーマとなっていること自体に注目していく、ということになります。
「このこと(3つの要素)に注目するのだ」ということが念頭にあると、すぐに気づきやすくなりますし、注目しやすくなります。
そして、「注目」は、「共有」を生みます。
「注目する」。
ただそれを念頭に置くだけで、「3つの要素」が難しくても、「3つの要素」のすべてがその時になかったとしても、心理療法は確実に進みやすくなります。
それをより進めていくために役立つものを次回「④心理療法の支えになるもの、効果へ良い影響をもたらすもの」で提案します。