自分のままでいられる世界へ ~絵本「ボルカ」から

今回はジョン・バーニンガムの絵本、「ボルカ」(ほるぷ出版)を取り上げたいと思います。

「ボルカ」ジョン・バーニンガム、ほるぷ出版


ガチョウの夫婦に6羽の子どもたちが生まれましたが、そのうちの1羽のボルカには羽が全くはえてきませんでした。

お医者さんガチョウに診てもらいましたが、羽がないこと以外はどこも悪くありません。

羽がなくて寒いボルカのために、お母さんガチョウは羽を編んで着せてやりました。

でもそれを他のきょうだいたちは笑い、いじめました。

一緒にいたくないボルカはひとり隠れていたので、泳いだり飛んだりすることを覚えられませんでした。

忙しいお父さん・お母さんガチョウは、そんなことが起きているとは知らず夏が終わり、ボルカがいないことに気づかないまま、暖かいところへ旅立って行ってしまいました。


ここでは、障がい、そして、いじめ・虐待というテーマが連想されます。

先日参加したビブリオバトルで「ボルカ」を紹介された方は、「こんな経験をした人がいるんじゃないか、ボルカのような気持ちになったことがあるのではないかと思います」と言っていました。

お母さんガチョウはボルカのために羽を編む〝親心”は持っていますが、ボルカの痛みは知らないまま。ボルカを深く支える存在として描かれていません。お父さんガチョウも心配してお医者に連れて行っただけ。

きょうだい間でのいじめは親の無関心・無関与によって起きているさまが現れています。



「みにくいアヒルの子」と違う「ボルカ」のお話の魅力はここからです。



ひとり残されたボルカ。

とぼとぼと歩いていくと入り江に泊まる船が見えます。

雨をよけるために船に乗り込んだところ、犬のファウラーに吠えたてられました。でも事情を知ったファウラーは吠えるのを止め、ボルカを寝場所につれて行ってあげました。

ボルカは船乗りたちとも仲良しになり、一緒にロンドンまで行くことになります。



家族に置いていかれたひとりぼっちボルカでしたが、育った場所を離れていったことで、新しい出会いがありました。

ファウラーに吠えたてられるという命の危険にさらされながらも、話をすることで船の仲間になります。

これまでとは違う存在、これまでとは違うやりかた、

そこから新しい方向が開かれて行きます。



ロンドンに着き、船長はボルカをキュー植物園に連れて行きました。

ガチョウだけでなく、いろんなかわった鳥たちも一緒に暮らすキュー植物園。だれもボルカの灰色の羽根を笑ったりしませんでした。

そこでボルカは特別に仲良しのガチョウと出会い、そして幸せに暮らしました。



ボルカは、自身を何も変えることなく、ただそのままでいられる場所に辿り着きました。

だってみんな「いろいろ」だし「かわって」いるから。



クライエントさんの中には、自分を変えたい、変わりたい、変わるべきという思いを強く持っている方がいます。

成長という点では、それは素晴らしいモチベーションです。

でもボルカのように、自分を変えることなく、それでも、気持ちには変化が起きてくるということを、カウンセリングでは大事にしたいなぁと思っています。


最後のページのボルカの表情(ぜひお手に取って読んでみてください)。

そんな表情へと導かれることを願いながら。