苦難の後の「成長」(ポスト・トラウマティック・グロース)
PTSDやトラウマという言葉は、かなり一般的になりました。
とても衝撃的な出来事を経験したり、それに触れたりするなどによって(トラウマ)、強いショックを受け、それが心身の不調などに現れることをいいます(PTSD)。
一方、「ポスト・トラウマティック・グロース(外傷後成長)」というのは、大きな心の傷を受けた後に、ストレス状態から回復し、さらに「成長」する、自分が成長したと感じられることをいいます。
死の危険にさらされるようなトラウマ体験に限らず、このような変容は起こります。
人生に起きる苦難、試練、逆境。
自ら望んだわけではありませんから、その苦しみ、痛みは非常に辛いものです。
しかしそこから、何かをつかんでいく人もたくさんいることを、私は臨床を続けているなかで、確かに見てきました。
例えば離婚。
自らが望まないなかでの離婚は、とても辛く苦しいことです。
同時に、相手への怒りがかきたてられたりもします。
複雑な気持ちを見ていくと、自分の両親との関係や、子どもの時に経験した、さまざまな心の傷が現れてくることもあります。
苦しくて辛い気持ちですが、その気持ちにもっと近づくことができていくと、自分自身や家族、これまでのこと、いろんなことを振り返って見ていけるようになることがあります。
「感謝」の気持ちは、その先から生まれてきていることが多いです。
辛さや哀しさがなくなっているわけではない。
でも同時に同じくらい、感謝の気持ちが生まれてくるのです。
それは、自分に起きた出来事を振り返ることができているなかで、わかったこと、見えたこと、感じたことがあって、
そうやってわかったことで、新しい自分になれているような感じが生まれています。
それが感謝だと。
「自分の人生を生きている」。そういう感じが伝わってきます。
「ここにいたって、わしにはわかるのだ。本当に力といえるもので、持つに値するものは、たったひとつしかないことが。それは、何かを獲得する力ではなくて、受け入れる力だ。」
(「ゲド戦記Ⅲさいはての島へ」ル・グウィン、清水真砂子訳、岩波書店)
クライエントさんが「感謝」を感じているときの語りには、クライエントさんが、自分の人生に起きたことを受け入れ、それを自分のものにした力が伝わってきます。
私が、自分自身の経験からも、たくさんのクライエントさんとの出会いからも思うのは、辛い出来事の中に、自分にとっての真実がある、ということです。
自分にとって、とても重要だからこそ、痛い。
そこには、自分にとって大切なものは何か、その大切なものに対して、自分はどうするか、どうあるか、ということが潜んでいる。
それを見つけ、それを自分のものにしていくプロセスは、とても苦しく、でも力強い。
私はいつも、クライエントさんのそういう力に、心が震えるような感動を抱かせてもらいます。
これを見つけ出していくプロセスは、苦しく、孤独です。
だからこそ、そこには支えが必要。
人によって、その支えは、いろいろあるのではないでしょうか。
日常の中にも。
ペットのワンちゃんが自分を見つめる瞳。
見上げた夜空の月。
帰り道に、コンビニから漏れる光。
私はカウンセラーなので、カウンセラーとして一緒にいる、伴走する、見守る、ということをします。
そうしてそばにいる中で、こんなふうなすごい変容を見せてもらえることは、私にとって「感謝」以上の言葉が見つからない、そういう気持ちになります。