「親を捨ててもいいですか」

 少し前ですが、NHK「クローズアップ現代+」で、「親を捨ててもいいですか? 虐待・束縛をこえて」という放送がありました(2021年5月6日放送)。

コメンテーターとして、臨床心理士の信田さよ子さんが出演されていました。

「親を捨ててもいいですか?」というタイトルには、大人になった子どもの、親に対する「責任」を前提としているニュアンスが伺えます。


信田さよ子さんは、「母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き」で、母の呪縛に苦しむ娘を取り上げました。

それは、私がカウンセリングで出会うたくさんのクライエントさんたちの苦しみと同じ物語でした。

それが十数年前。

母と娘の関係における苦しみは、それよりも前から、フェミニズムの中で明らかにされてきたものです。

そうなのです。このテーマは、もう何十年も前から臨床の中で扱われてきているのです。



娘が母から受けている苦しみは、さまざまです。

呪縛、コントロール、抑圧、攻撃、冷淡や無視。


カウンセリングに来るクライエントさんはみんな、そんな母の期待や要求に何とか応えようと一生懸命です。

でもどれだけ頑張っても、決して認めてもらったり、受け止めてもらったり、感謝してもらったりということがない。

その繰り返しに疲れて、要求の強い母から頑張って距離を取るようにしても、完全に距離を取ったり(縁を切るとか)、邪険にしたりできず、押し寄せるパワーに崩れまいと、必死に壁を支えているような気持ちでいる人が多くいます。

同時に、こんなふうに距離を取ってしまっていることへの根深い罪悪感にさいなまれ、苦しんでもいます。


親を捨てたい。離れたい。

でも離れることへの罪悪感が襲う。


信田さよ子さんは番組の中でこんなふうに言っておられました。


『聞く人が聞いたら不愉快でしょうけど、私は「親を捨てたい」と言わなきゃいけないところまで追い詰められてる人のことを思うと、本当に心が痛む。だからもし、私がカウンセラーとしてそういうことを聞いたら「いいんじゃないですか」、「親に対してNOって言うこともOKですよ」と言ってあげたいです。

誰もそういうふうに言ってくれないから。「親を捨てたい」、「いいですよ」なんて言ってくれないわけですから。カウンセラーぐらいは言ってあげてもいいんじゃないかと思います。』


私も信田さんの言葉に同感・同意します。

そう言わたら、どれだけホッとできるでしょう。


でも一方で、「親を捨てたい」と思う自分、親を「捨てたり」、距離を取ろうとする自分に対し、罪悪感に苦しむクライエントさんもいます。


こういうとき、まずは、その両方の気持ちを、とりあえずでいいので、分けてあげたいと思います。


親から離れたい、苦しみから逃れたいという気持ち

そして、

離れたいと思ってしまう自分への罪悪感


この二つを分けて、

それから、それぞれの気持ちをしっかりと見ていってあげたいのです。


信田さんが「(親を捨てても)いいんじゃないですか」とクライエントさんに言っているのは、「親から離れたい」という気持ちのほうを肯定しました。

なぜなら、他の人、世間は、そういう態度を非難・批判するからです。こういう社会の圧力からこの気持ちを守るために、「OKですよ」と言ってあげているのです。


そして一方で起きる罪悪感。

罪悪感は、きっとゼロにはならないもののようです。

でも、和らげることはできます。

このことについては、また別のブログページでも書いてみたいと思います。