「ようこそ」のあたたかさ

私は子どものころ、転校を繰り返していました。

活発でも明るい性格でもなかった私にとって、転校はとてもストレスなことでした。クラスに馴染み、学習に追いつき、学校生活を乗り切るのに、毎回大変な思いをしてきたことを覚えています。


新しい学校に移ったときのことを思い返してみると、学校や先生が、私を歓迎する態度を示してくれた記憶がありません。転校がストレスとして記憶されているのは、そのためかもしれません。

朝、担任の先生と一緒に教室に向かい、挨拶をしたら、指定の席に座るように言われ、そのまますぐに、他のみんなにとっての「いつもの」授業が始まっていました。どの学校でも同じでした。私は自己紹介しますが、どの学校でも、先生やクラスメートの自己紹介はありませんでした。施設のオリエンテーションも、もちろんありません。


一番衝撃的に覚えているのは小学校3年生のとき。2学期の途中での転校でした。

転入の挨拶を終え、席についたら、先生が「〇〇をやろう」と言いました。

クラスのみんながワッと歓声を上げ、うれしそうにノートを机に広げていました。何をするのかわからなかったのですが、私もみんなと同じことをしようと、とりあえずノートを机に出しました。

そして先生が黒板に式を書きました。

見たこともない式でした。


り+み=50

り3+み4=170


私は全くわからず、どうしたらいいかもわからず、ただ座っているだけでした。

そうすると一人、そしてまた一人と、ノートを持って子どもたちが先生の机に行きます。先生は丸付けをしているのでした。


いつの間にか、クラスの全員が先生の机から一列に並び、私一人がぽつんと座っていました。

黒板の前に一列に並んだクラスメートは、みんな私を見ていました。


あの時のいたたまれない気持ちは、今でも覚えています。


わからなかったのは当然でした。

それは、中学の数学問題(方程式)だったのです。

「〇〇をやろう」の〇〇がわからなかったのもそのためでした。

(「り」はりんご、「み」はみかん。「り3」は「りんごが3個」、「み4」は「みかんが4個」と意味していました。x+y=50、3x+4y=170と同じ意味です。)



あの先生は、なぜ私が来た初日に、小学3年生がわかるはずもない問題を出したんだろう。

そして私には何のフォローもアドバイスもなく、机に一人放置したんだろう。


あの頃私は、そんな疑問を抱く力はありませんでした。

驚きと、不安、恥、そして小さい恐怖感を持って家に帰りました。


今、私は、先生は転校生に無関心というより、むしろ、意地悪だったと思います。

私は他でも、担任の先生に、できるだけ早く馴染めるようにフォローしたりサポートしてもらうどころか、のけ者にされたり、ひどいことを言われた経験もありました。

転入後に緊張感が続くのは、そして新しい学校に馴染むのに苦労していたのは、私自身の性格もありましたが、

自分が歓迎されているわけではないということを感じ取っていたからだったと思います。



私は、AEDP™セラピーというアプローチをカウンセリングのベースにしています。

その講座を受けにNYまで行った初めての日、一人のアシスタントが私のところにいっぱいの笑顔で来ました。

英語力に全く自信がないのにも関わらず、一人で日本から来た私のことをNY在住の日本人セラピストから聞いて、気にかけてくれたのです。

「あなたのことを聞いてるのよ!困ったことがあったら何でも聞いてね!」

とてもうれしかったです。そしてとても心が温まりました。

私を知ってくれている人がいる。

独りじゃない。

という気持ちになれました。

彼女は講座期間中ずっと、私のことを気にかけてくれていました。そして、励まし、褒め、支えてくれました。

とてもありがたかったです。

彼女のおかげで、不安と緊張の5日間を頑張って乗り切ることができました。


「ようこそ!あなたを歓迎します!」

こういう言葉と態度が、どれほど人を安心させ、心を開くことでしょう。

私はあなたに関心があります。あなたと会えてうれしい。

やさしい言葉と笑顔。あたたかい眼差し。それとない配慮。

どんな場でも、大切にしたい態度だと思います。

カウンセリングでは特に。

だって、もうすでに、たくさんの不安と緊張、恥や恐れ、苦しみと悲しみを、日常の中で感じてきたのですから。

カウンセリングでは、まず、「ここで話していいんだ」と感じてもらえるような時間にしたいと思っています。