「すべての山に登れ」

紅葉の季節。

近くの山に行きました。

見上げれば色づいた紅葉と空。足元は落ち葉がカサカサと優しい音をたてていました。

  

時々、近くの山に行きますが、以前はちょっと本格的な登山をしていました。日本ではアルプスや北海道などの山々。海外へも登山旅行を何度かしました。

「山ガール」や「中高年の山歩き」もまだなかった頃。山は比較的静かな場所でした。


私は、連れとのおしゃべりを楽しんだり、景色や自然を満喫するよりもむしろ、ただただ、もくもくと歩くのが好きなほうです。せっかくの景色や自然、鳥の声に目を向けないのは、もったいないような気もするのですが、山に行くと、そういう気持ちや欲求よりも、どうも身体が自然とズンズン動いていくようです。


「呼吸は自分の歩み、歩き方に合わせるのが大事だ。(中略)呼吸をうまくやるのは、登っているときに常に自分の体に問い続けることだ。『どのペースが一番楽だと思う?』とね。するとリズムが少しずつわかってくる」

〔「藤原章生のぶらっとヒマラヤ」毎日新聞2021年6月29日(火)夕刊。ネパールのダウラギリ登山中、スペイン人登山家カルロス・ソリアさん(81歳)がダウラギリ(8,167 m)登山で語った言葉。〕


呼吸のリズム。身体の声。

自分を見つめていくとき、体験を深めていくとき、カウンセリングでもとても大切なことです。



山を歩く、ということについては、こんな歌があります。

ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」で、主人公のマリアが自分の方向性に戸惑っていたとき、修道院長が彼女に歌った歌です。 


「すべての山に登れ」 

すべての山を登りなさい 高きも低きをたずね

あなたの知るすべての道

あらゆる小径をたどるのです

すべての山を登りなさい あらゆる流れを渡り

あなたの夢を見つけだすまで あらゆる虹を追え

あなたが与えうる限りの愛 その必要としている夢

来る日も来る日も あなたが生きつづけるかぎり

すべての山を登りなさい すべてのせせらぎ 流れを渡り

あなたの夢を見つけだすまで

すべての虹を追うのです

(Sound of Music, "Climb every mountain")



生きていく中での迷い。方向性を見失って、立ちつくしてしまうような時。

暗闇の中で、トンネルの中で、身動きができないようなこと。

そういうなかでも、人は歩き続けているのではないでしょうか。

どこに向かっているかわからないけれど、ただただ歩いている。

それは、すべての山に登っている、その途中にいるように思います。


自分の方向性が見えなくなっていた時。

自信を持てず、どうしたらいいかわからない孤独感につらくなっていた時。

この歌は静かに私を支えてくれていたことがありました。



「山」を「歩く」。

身体が感じていること。

メタファーとして思うこと。

だから私はハイキングや登山が好きなのかもしれません。